しん、しん、しん。
しん、しん、しん。
降り積もる、雪。罪色の赤を、白く染めて、よろい戸はいっそう強固に、籠の中から、見つめる…白。
夕暮れを過ぎても、町に明かりは灯らない。川の向こうにぼんやりと浮かび上がる赤い時計塔をいつまでも眺めていても、向こう岸からの船は、もう、こないのだ。
格子戸によりかかり、積もった雪の向こうに広がる闇を見つめて、千尋は我が身を抱きしめた。選んだのは、自分なのだから。と、何度となく言い聞かせても、ぬぐうことの出来ない後悔に、夜毎日毎さいなまれていた。
目の前で、彼は消えてしまったのだ。
…
……
振り乱した髪の隙間から覗く、翡翠の瞳が、千尋を見て、笑う。
「…あなたはっ…。」
「どちらが良かった?千尋。『僕』と『私』と。」
意地の悪い笑み。
「どちらも、ハクだ。そなたにとっては。…だが、『私』にとっては違う。元が同じであろうとも、千尋は一人、渡す気は…無い。」
「…もう、一人の、ハクは?」
「まだ、かすかには残っている。…が、すぐに消えるだろう。」
…
……
そうして、彼の姿は、彼の中に消えてしまった。今は、もう、いない。この世の何処にも。
それ以来、千尋は囚われている。たった一人、この場所に。赤を基調として整えられた調度。身を包むのは緋色の襦袢。もっと華麗な衣装はいくらでもあった、それこそ、ドレスと言わず、着物と言わず。だが、それを纏う気にはなれなかった。
「…うっ…、くっ…」
肩を震わせて、うずくまり、嗚咽する。そして、今夜も、夜がやって来るのだ。