月の見せた幻

 

 

 

降り注ぐ、満ちる光の確かさに、幻さえも、真に見えて…。

煌煌と、雪を照らす満月の明かり。無人の油屋にさえざえと。

ただ一人、ハクは鏡に向かう。映る自分の姿に、人であった己を重ねる。

「何ゆえお前は邪魔をするのだ」

 鏡の向こうの自身に毒づいても、言葉は返らない。

「力なき人の身にして、いまだ千尋の心を占める…、千尋の記憶の中で私とお前は同一のものだというのに…」

 かすかに、鏡の中の自分が、笑っているように見える。月の光を浴びて、歪む影の成せる技か、はっとして、己の顔に手をやってみる。

 変わらずに、微笑む、鏡の中の自分。

「…馬鹿な、そんな…」

 振り上げた拳が鏡を割り、拳を中心に亀裂が広がる。鏡面を伝い落ちる赤い血潮。

 再び覗き見た割れた鏡は、変わらずに自分の姿を映していた。

 流れた血を、舌でぬぐう。

 血にぬれた鏡は、答えず、月明かりに浮かぶ、ほの明るい部屋の姿を、ひび割れたまま写し返していた。

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