食事をとり、買い物に行く。元々、多摩に住んでいた千尋はそれなりに土地鑑はあったし、ハクも、双子の従兄弟が同様こちらの大学に通うため二人暮しをしていたせいか、ある程度は慣れている。
―――――問題は、黒ハクだった。
「おおっ!何だ!あれは『てれび』か?!あんなに大きいのか?」
「あれは男か?女のような姿だが…」
「千尋っ!あれは何だ!?」
父の車で千尋にくっついてきた黒ハクは、東京の雑踏、町並みを見るのは初めてだ。さきほどまでの不機嫌はどこへやら、興奮気味に周囲へ視線を走らせる。
そんなハクの無邪気さに、ふっと千尋の顔が優しくなる。恐ろしい、魔物のようだと思ったのが、随分と昔のように思える。…こうしていると、何だか可愛いのにな。とさえ思えた。
そして、千尋が、どんなに口では言っても、自分の半身を憎からず思っている事を自覚する時、ハクは胸の奥がチリチリと痛む。常に千尋の傍らにいる半身を、自分は、真実、どう思っているのか。嫉妬まじりの羨望に、心を狂わされそうになる。
三人三様の思いを、春の午後の日差しが柔らかくつつんでいた。