もしも永遠と呼べるものがあったなら…。 |
「そうか、娘は逃げたか…」
木造の神殿に、顔を白と赤とで隈取った背の高い異国の呪術師の低い声がよく響いた。縄をうった少年を床に降ろすと、男達はその場を辞した。呪術師と目を合わせないよう、そそくさと立ち去る。背の高い呪術師は、足元の少年の乱れ髪を無造作に掴み、体ごと持ち上げた。
「ムラの大事よりも愛しい娘をとったか、愚かな事だな」
痛めつけられ、瞼が腫上がってはいるが、瞳の輝きをまったく損なわず、少年が呪術師をねめつける。
「いいことを教えてやろうか」
心から愉快そうに呪術師がいやらしい声で囁いた。
「お前でもかまわないんだ、はじめからな」
耳に吹きかけられた吐息にゾッとし、起こそうとした体を、呪術師がさらなる力を持ってして押さえ込んだ。
「儀式は、予定通り行える…どうだ、くやしいか?」
少年の体から力が抜けていく…。
神殿に、高笑いをする男の声が響いた。
ひとしきりの嬌声ののち、闇に潜む眷属を呼び、事寄せる。
「山狩りに出た者どもを始末しろ」
号令一過、眷属たちは飛び去った。
「これで娘が逃げおおせた事を知る者は誰もいない、愛しい娘の身代わりだ、本望だろう?」
繰り返す呪術師の嘲笑う声を聞きながら、少年は逃げおおせたはずの少女を思った。