もしも永遠と呼べるものがあったなら…。 |
いくつもの篝火が揺れていた。足音、呼ぶ声、怒声に、狂気じみた叫びがすぐ後ろに聞こえてくる。闇の中、息を潜めると、途端に鼓動が体内を反響し、カッと耳が熱を持つ。
…気づかれてはいけない。
髪を美豆良に結った少年は、日陰蔓を頭に巻いた少女の手をじっと握り、水辺の葦原に隠れる。ぱしゃり、と、誰かが浅瀬に入りこんだ音がした。こうなっては身動き一つが命取りになる。
だめだ…このままでは…!
意を決した少年は、自分の髪を解くと、少女の髪に巻かれた日陰蔓を取り、自分の髪に編みこんだ。手にした薄衣もまた受け取ると、少女に告げた。
ここで、じっとしているんだ。
少年の意図を察した少女が拒絶を露にした。が、少年は彼女の肩をしっかりと抱きしめ、耳打し、腰を落としたまま、葦原の深いところを探して少女から距離をとった。充分離れたところで立ち上がると、一斉に篝火が少年向かって集まりだした。
「いたぞ!」
「あそこだ!」
「捕まえろ!」
「贄がおらねば儀式にならぬ!」
灯りに群がる火蛾のように、少年に群がる。
残された少女は、息を殺し、涙を殺し、呪うような気持ちでその場から一歩も動かなかった。少年との誓いゆえに。人の群れが消え、気配が消える頃、にぎりしめた手には、みずからの爪によってできた傷から血が滲んでいた。