千尋は両親に連れられて、参道を歩いてた。既に日は暮れて、灯篭には灯りが点っている。居並ぶ露天商の先に、神社が見えた。
そもそも、母が急に和モノかぶれになったのが原因だった。隣町くんだりまで、神楽舞を見るためだけにやって来たのだ。
「そうしていると、千尋もなかなかじゃない。」
紬姿の母が父に問い掛ける。二人並んで歩く様は、いまだ恋人同士のようにも見え、娘は居心地悪そうにあたりを見回しながら、二人の後をついていた。
奉納舞の刻限まではいくらかあるらしく、神楽殿の周囲は人もまばらで、落ち着きが無い。
「ちょとあっち見てくるね。」
あまり遠くへいくんじゃないよ。という父の声を背後に聞いて、千尋は社務所の方へ向かって歩いていった。
赤い太鼓橋のたもとまで来ると、池の中の島に亀がいるのが見えた。小紋姿のまま、欄干に足を乗せ、のぞきこもうとした時。
声をかけられた。
既視感。
どこかで。
振り向くと、面をつけ、舞の衣装に身を包んだヒトがいた。
「あぶないよ。」
「…その橋は大分古くなっているから。欄干がはずれるかもしれない。」
声はどうやら男性のものらしい。面をつけているので、顔はわからないが、千尋とそう変わらない年頃のようだった。
「じゃあ、注意書きでも書いておかないと。」
足を欄干に乗せたまま、振り向いた、その時、足をささえていた個所に亀裂が入った。めきり。と音をたてて、欄干の一角が崩れる。驚いた千尋はよろけて、そのまま倒れこみそうになった。
「あぶない!」
白い着物に包まれる。
少女を腕に包み込む。
そのヒトが、千尋をささえた。欄干が折れ、池に落ちる音がした。
「ご…、ごめんなさいっ!」
支えられた腕から逃げるように、身を翻した瞬間。腕が面をはじく。
とれた面の下に覗いた、…顔。
「ハク!?」