逢魔の刻〜神隠し〜(6)

 千尋は両親に連れられて、参道を歩いてた。既に日は暮れて、灯篭には灯りが点っている。居並ぶ露天商の先に、神社が見えた。

 そもそも、母が急に和モノかぶれになったのが原因だった。隣町くんだりまで、神楽舞を見るためだけにやって来たのだ。

「そうしていると、千尋もなかなかじゃない。」

 紬姿の母が父に問い掛ける。二人並んで歩く様は、いまだ恋人同士のようにも見え、娘は居心地悪そうにあたりを見回しながら、二人の後をついていた。

 奉納舞の刻限まではいくらかあるらしく、神楽殿の周囲は人もまばらで、落ち着きが無い。

「ちょとあっち見てくるね。」

 あまり遠くへいくんじゃないよ。という父の声を背後に聞いて、千尋は社務所の方へ向かって歩いていった。

 赤い太鼓橋のたもとまで来ると、池の中の島に亀がいるのが見えた。小紋姿のまま、欄干に足を乗せ、のぞきこもうとした時。

 声をかけられた。

 既視感。

 どこかで。

 振り向くと、面をつけ、舞の衣装に身を包んだヒトがいた。

「あぶないよ。」

「…その橋は大分古くなっているから。欄干がはずれるかもしれない。」

 声はどうやら男性のものらしい。面をつけているので、顔はわからないが、千尋とそう変わらない年頃のようだった。

「じゃあ、注意書きでも書いておかないと。」

 足を欄干に乗せたまま、振り向いた、その時、足をささえていた個所に亀裂が入った。めきり。と音をたてて、欄干の一角が崩れる。驚いた千尋はよろけて、そのまま倒れこみそうになった。

「あぶない!」

 白い着物に包まれる。

 少女を腕に包み込む。

 そのヒトが、千尋をささえた。欄干が折れ、池に落ちる音がした。

「ご…、ごめんなさいっ!」

 支えられた腕から逃げるように、身を翻した瞬間。腕が面をはじく。

 とれた面の下に覗いた、…顔。

「ハク!?」

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