■不思議の町side
光の奔流が消えていくと、橋の中央に並び立つ親王、男雛女雛の一対。
「どうやら、成功したようだ」
いつの間にか人の姿をとっていたハクが、ほっと胸を撫で下ろす。それまで気を張っていた千尋が、少しよろけたのを両手で支えた。
「千尋!大事ないか?」
「ええ、大丈夫…この子のおかげかな?」
そう言って微笑むと、千尋は自分の腹をさすった。
「よう、戻られた…」
「背の君…」
抱きあう対の二人を、三人官女、五人囃子、矢大臣が見守る。
「我等はそれ、あちらにあらしゃいます竜と竜のご夫人に助けられた」
笏を持って千尋達を男雛が指し示すと、女雛が目を丸くした。
「まあ、わらわがあちらの世界で随従にした者共によう似ておりまする」
「随従?!それは男にあらしゃいますか?」
憤慨する男雛に、女雛がふわりと抱きついた。
「まあ、わらわは背の君を忘れたことなど片時もございません」
そうなると、男雛も振り上げようとした笏のやりどころを失い、女雛を抱く他できなかった。
睦まじい一対を、囲むよう、他の雛達が続く、完全に夜が明けきると、雛たちが光の球体に包まれた。
「感謝いたす、御子が健やかなるよう、我らからあらんかぎりの加護を」
「美しい、優しい娘になるように」
「人の痛みのわかる娘となるように」
「父の思いと」
「母の思いと」
「健やかなれ、竜と人の御子…」
さざめく雛たちの声と共に、光の球体が天高く舞い上がり、そして朝日と青空に、いつしか溶け込んでいった。
「…断言されてしまったな、どうやら、娘であるらしい」
「生まれる前からお雛様の加護のある子…ステキね、どんな娘になるのかしら」
千尋がその身をよりかけると、ハクは、いたわるように、その内に宿る子供ごと抱きしめた。
壁紙提供:深紅の月夜様