■不思議の町side

 夜明け間近の油屋の、橋のたもとに集う者、白い竜、人の娘に雛飾り、ようよう明け行く日の光…。

「界渡りのまじない?」

 黙って白い竜が頷いた。沼の底の銭婆から授けられた知恵だった。橋を基点に異なる世界を垣間見る技。

 橋の中央に男雛を立たせ、術者は橋のたもとで呪法を行う。触媒となる男雛を介して、異なる世界の扉が開く、と。ただ、その術は術者の消耗が激しく、大きな力を伴うという。川の神としてのよりどころを持たないハクには実行することは難しかった。だが、しかし。

「…私が?」

 銭婆に、ハクは全てを話した。千尋が身ごもっている、ということも。

 子を宿した娘はより強い力を持つという。一つの身に二つの命をもつゆえに。まして、千尋が宿しているのは竜の御子。人としての非力を補うほどに、その力は強くなると。

 朝日に向かい、千尋の詠唱が始まった。

「高天原に坐し坐して天と地に御働きを現し給う龍王は

 大宇宙根元の御祖の御使いにして一切を産み一切を育て

 萬物を御支配あらせ給う王神なれば…」


NEXT>>
TOP>>

壁紙提供:深紅の月夜様