「それは真か?」
白磁の肌に、一筋、二筋、薄く引かれた相貌と、紅。きっちり結われた髪に冠をのせ、衣冠束帯は緻密な模様が施された絹。童子五人の主は両脇に三人官女、矢大臣を従え、手には勺を持っていた。
「確かに」
「さらに申せば」
「人の娘にござりまする」
同じ顔の童子が三人、つうと進んでのたまうと、いよいようれしそうに、主は微笑んだ。
「人の子…、ならばいよいよもってちょうどよい、連れてまいれ、その娘」
「ははっ…」
「それでは…」
残り二人が進み出でると、同じ顔の五人の童子は身を翻し、その場を辞した。
「御屋形様…、まさか、その娘を用いるのですか?」
矢大臣の若い方が進み出でて進言する。
「何ともまあ、ちょうどよいではあらしゃいませんか」
勺で口元を隠すようにして主が答える。
「ですが…関係無い娘を巻き込んでは…」
「だまらっしゃい!」
口篭もる矢大臣を主が一喝した。
「そうじゃ、その『関係ない娘』が、我らが姫さんを連れて逃げて、どれだけの年月たったか…、姫さんがおらねば、我らは永遠に未完成のまま、役目もはたせず、中途半端の存在でい続けるのみ、力無き、人形のままでは、姫さんを探すことさえかないません」
「だからといって…」
「案ずるでない、なにもとって食おうというのでは無い、娘の腹の御子に、我が宿りて力借りるだけじゃ、さすれば我は人の体を手に入れる事ができる、誰はばかることなく姫さんを探すこともできよう」
「右近さん、橘の右近さん」
官女の一人が口を開くと、他の二人が続いた。
「姫さんが戻らねば、我らは誰におつかえ申せばよろしいのでしょう」
「姫さんを探すため、その娘御にはお力借りるだけでございまする」
同じ顔の三人の女が、繰り返しさざめく。うなだれた矢大臣の肩を、もう一人の大臣が叩いた。
「左の大臣…」
「今は、御屋形様の御心のままに…」
湯屋の一室、その隣も、さらにその向こうにも、同様に並ぶ部屋で、この部屋だけ、女主の姿が無かった。
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