親王〜女雛〜逢魔の刻

 正直、あまり居心地の良い空間ではないな、と、「お互いで」思いながら、先に口を開いたのは黒の方だった。

「…で?これがその女雛…という事か」

「あ?…ああ、そうだった、持ち主に返したいんだけどね、でなければ縁のあるお寺にでも…と」

 ベットに腰かけていた白ハクが立ち上がろうとすると、パソコン用の椅子に座っていた(それはとても不似合いな構図だった)黒ハクが机の上の女雛を左手で持ち上げ、女雛の額のあたりで右手の人差し指で虚空に文字のようなものを描いた。

 すると、かすかに女雛の金冠が揺れたかと思うと、薄く引かれた紅が口をきいた。

 くるり、と、黒ハクの方を一瞥し、言った。

「そなたか、わらわを目覚めさせたは」

「な…」

 白ハクがあっけにとられる。

「直接聞いてみればよかろう、その方が話が早い」

 黒ハクの手にのった女雛が、今度は白ハクの方を見た。

「志摩子はどこへ行った」

 人形の、女雛がしゃべる。

「志摩子?」

「わらわをここへ連れてきた娘じゃ」

 おばあさんだったって聞いているけど…と、思いながら、白ハクは(従兄弟の教えにより、)女性には、…たとえ人形であっても、優しく問い掛ける。

「え…と、その志摩子さんなら、貴女をここへ預けてお帰りになったそうですよ」

 物腰やわらかな青年の様子に気をよくした女雛だったが、すぐに表情を険しくし、言う。

「帰ったと!否!志摩子は自ら命を絶つ気じゃ!」

「命を絶つ…とは…」

 超然としていた黒ハクも、穏やかならぬ事のなりゆきに表情をこわばらせ、白と黒のハクが不安そうに視線を合わせた。

「そちら!」

 女雛が黒ハクと白ハクを交互に見やる。

「随従となる事を許す、わらわを志摩子の元へ連れて参れ」

「連れて行け…と言われても、我等はその志摩子とかの顔を知らぬ」

 口調は面倒そうだが、やはりそこは(?)ハクである、直接表面には出さないが、同様心配している様子が、白ハクには見て取れた。

「案内する!輿を持て!」

 手にした扇をとじて、方角を指し示した。


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