BlueFrogPrince -あるいは青蛙の憂鬱-
■そして世は事も無く……?
「いらっしゃいませ!お早いおこしで!」
青蛙は元気に橋の袂で跳ね回る。
ハク様の機嫌は相変わらず悪く、湯女にも変わらずバカにはされるけれど、青蛙は前より自分が少しだけ好きになった。
自分は自分で、他の誰でも無いのだから。
ただ、リンの事だけは少し胸が痛んだ。
騙しているような後ろめたさがあった。
時々チクリと胸が痛むけれど、それはまた刹那の美しい思い出として心の大切な場所にしまっておこう、と、……思った。
リンといえば、変わらず元気に働いている。
ただ、カレンダーに赤い丸をつけた。
それは三月先の日付。
それは湯婆婆の試練の日。
恐れずに前に進もうと、それは決意の証だった。
「……おかしいねぇ」
魔法書を片手に銭婆がつぶやく。
明けの明星の呪法は、真実の姿に戻るまじない。
それではあれは、あちらの方が真実の姿だったのではないのか……。
眼鏡をはずし、紫のふくさの上の水晶では、青蛙が跳ねている。
「まあ、いずれあの子が決める事さね」
つぶやいて、銭婆は書を閉じた。
ハクが千尋を追って湯屋を出、新しい帳場を金色の髪の青年が引き継ぐのは、まだもう少し先のお話……。
(終)