BlueFrogPrince -あるいは青蛙の憂鬱-
■沼の底に王子現る
「アッ、アッ、アッ……」
応対に出たはずのカオナシはどうにも要領を得ない。
「なんだい、カオナシ、客かい?」
編み物から目をそらさずに、銭婆は答えた。
「アーーーーーーー」
もじもじと指を遊ぶようにして、カオナシが面の前で手をおがむようにして組んでいる。
「わかったよ、出ればいいんだろう?」
さして客がおとなう事も無い、魔女の家へいったい誰か?
怪訝そうに来客の姿を見つける、開いた扉の向こうに、見知らぬ青年が立っていた。
金色の波打つ髪と、青い半纏姿がなんともちぐはぐで似合っていない。
どうにも見覚えの無い顔に銭婆も戸惑う。
「誰だい?あんた」
あからさまに警戒心むき出しで尋ねると、
「ああ……あなたが銭婆様ですね!本当に湯婆婆様にそっくりだ!釜爺に聞いてここまで線路をたどって歩いて来ました。私は湯屋に勤める青蛙です。お願いです!助けて下さい!」
青年はすがりつくような目で銭婆を見つめた。
「そりゃあれだ、明けの明星の女神の気まぐれさね……しかし、よくまあ化けたもんだ、私ですら惚れ惚れしちまうよ」
ポットのコーヒーをカップに注ぎ、銭婆が青年にカップを渡す。
銭婆の整えた装束で、青蛙はいっそう王子のような風貌に磨きがかかっている。
「僕が化けたんじゃありません!目が覚めたら……この姿で!湯女達にはおもちゃにされそうになるし、仲間達は怪訝そうな顔で見るし、ハク様にいたってはスッキリサッパリ僕を無視して……、僕もうどうしたらいいか……」
さめざめと泣く青年の顔といい首といい、赤い紅がついている、恐らくは湯女達のものだろう。
「けど、自分で願ったんだろう?強くなりたい、美しくなりたい、願いはかなったんだ、うれしいんじゃないかい?」
銭婆は自分の椅子に腰掛けて、コーヒーを一口すすった。
「でも、この姿は僕の姿じゃありません、僕は僕のままで強くなりたかった、僕なりの形で美しくなりたかった……だから、これは違うんです……でも、今の僕には元に戻る術がわからない……釜爺さんに相談したら、銭婆さんならそうした事に詳しいから、と」
青年はカップを両手で持ち、手をあたためている。
一度香りを嗅ぎ、一口すすろうとしたのだが、熱さに躊躇し、冷ましているのだった。
「ずいぶん見込まれたモンだねぇ……まったく、今度あの爺ィから、手数料でもふんだくってやろうか……」
いまいましそうにはき捨ているようで、けれど、銭婆の瞳は怒ってはいなかった。
ふぅとひとつため息をつき、銭婆が答える。
「古今東西、お姫様の眠りを覚まし、王子様の呪いを解く術はひとつしかないさ、アタシでなくたってわかる」
コトン、と、コーヒーカップをテーブルに置き、銭婆は続けた。
「口付け、キスの解呪さ」