さくさくと、雪を踏み分ける音、既に事切れた冷たい体に、宿るものは何もなく、黒衣の魔物は、たった一人で、その胸を突いた。ほとばしる鮮血が、既に千尋の血で染まった雪を、更に鮮やかに染め上げる。
時の止まった、不思議の町の、雪に咲いた赤い花。折り重なるように白い雪と、赤い血と、黒い衣が折り重なり、黙って時が過ぎてゆく。
掛け違われた歯車の、確かな証がただひとつ。
そうして、赤い門の向こうは、だあれもいない。
無人の湯屋に、花だけが、繰り返し、咲いては枯れて、咲いては枯れて…。
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