「えええええい、何故こいつがここにいる!!」
昼間学校で話せない分を取り返すように、黒ハクはマンションに戻るとたいそう饒舌になる。
してまた、白ハク、こと百道士郎は、実は千尋の両親にたいそう気に入られている。そつのない優等生、静かな物腰、非のうちどころのないボーイフレンド像であり、また、その裏には、都会でつまらない男にひっかかってくれるな、という両親の密かな意図も隠れている。ゆえに、今日も今日とて、実家を離れて、一人寮暮らしをしている彼は、荻野家の夕食に招かれていた、というわけなのだが…。
「おじさんの招待なんだから断るわけにいかないだろう?」
少々憤慨しながら士郎が答える…が、荻野父は、いまだ残業から帰っていない。だからこそ、双方気兼ねなく声を張り上げることができるのだった。白ハクは白ハクなりに、半身のストレス(魂だけの存在にそもそもストレスがあるかも謎なのだが…)発散に協力するつもりなのか、それとも単に言い合いになっているだけなのか、かなりムキになって口論をしている。
「学生の本分は学業であろう!?」
「おかげさまで、学業をおろそかにしたことはないよ!」
「下心が顔に出ている、やにさがりおって、見苦しい!」
「同じ顔だと思うけどね!」
「私の方が整っている!」
「どこがっ!」
後半、どんどん幼稚になっている事に、双方気づいているのかいないのか、これも一種の自問自答なのかな、と千尋はえらく的ハズレに思いながら、すき焼の準備にいそしんでいた。いいお肉、なわけだから、焼肉でも良かったのかもしれない、(そちらの方が準備も楽だし)実は、黒ハクのリクエストであることは、白の方には黙っていた方がいいのかなあ、とか思いながら。
「だいたい、君の食べたものはどこに行くんだろうね、質量保存の法則からいってもおかしいよ」
「…!また私の知らない言葉でケムに巻こうとするな!新手の呪詛か!それは!」
「違ーーーーう!」
茶の間は相変わらず楽しそう…に聞こえる。
その時、電話が鳴った。
お父さんかな?と思いながら千尋が受話器を取ると…。
「はい、もしもし、荻野です」
「千尋!?千尋ね!?」
父ではなかった。
「…理沙?どうしたの?」
「千尋…お母さんが…、お母さんが…っ」
電話の向こうで、嗚咽する理沙の声が聞こえたかと思うと、誰のものか、女の声と思われる悲鳴が響き…。
「…ッツーー、ツーーーー、ツーーーー」
「理沙!どうしたの!!理沙!?」
友人に、危機が迫っている、千尋は直感し、電話を切った。振り向くと、同じ顔をした二人が神妙な顔をしている。
「今のは、理沙とかいう娘からだな…フン、やはり、何ごとかあったか」
「!?それ、どういう?」
「今は話合ってる場合じゃない、急ごう、その子の家、わかるね」
To be continued…