夜明け間近の街灯下に放置された都指定のラベルの貼られたゴミ袋に、黒い羽の鳥が群れを成している。人の姿も無い、明け方の街に、一際夜の気配を帯びて、黒衣の男が歩いている。亜麻色の長い髪を一つに束ねて、見上げた空の上に一飛びで舞い上がった。街灯を蹴り、更に高みへ。
ビルの屋上から、烏の群れを見下ろすその場所に、あきらかに場違いな少年が立っていた。炎のような赤い髪と、額から伸びた一本の角。衣は緋の唐衣。綾錦で織られたそれは、都会の雑多さにはひどく不似合いだった。
屋上から見下ろし、クスクスと笑っている。そこが夜明けの屋上でなく、少年の装束が普通の少年と変わらなければ、屈託無い子供にしか見えなかったであろう。
「何を笑う?」
黒衣の男は、そうした違和感を意に介さず、少年に問うた。
「だっておかしいじゃないか、悪意、妬み、同じ種族なのに、同朋を憎んで、時には傷つける」
風貌に似ず、大人びた口調の少年は、男の問いに、素直に答えた。
「何者だ?お前は」
「さっきから質問ばかりだねぇ、お兄さんこそ何者だい?」
一陣の風が舞い、男の亜麻色の髪を舞い上がらせた。額に掛かる前髪の隙間から、少年以上に残忍な笑みが除いた。言葉を交わさずとも、少年と男は同質のモノである事がわかる。男を見て笑った少年の口に角からもまた、牙のごとき煌きが光る。
「…僕は、鬼だよ」
男に対して答えたのか、明けてゆく空に向けて少年が叫ぶ。来光を背にした少年の髪は、光を受けていっそう炎のように燃え上がった。
to be continued…
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