火鬼子(2)


 例のアイツからの電話が再度あって、海月堂にやってくるのだという。どんな人間かはわからないが、いずれろくでもない事が起きそうで、リンはうんざりしながらため息をついた。

「うっわーーー、何かコレ、ひどいこと書いてあるよ」

 心配してやって来た千尋とハクとハクが、話のあった掲示板を眺めながら言った。

「何々…」

 続いてハクが読み上げる。

「えーっと、…?『電話しました。何か、もののわかって無い姉ちゃんが出たかとおもったら、どうやらそこは喫茶店だか骨董屋だか、とにかく不特定多数の人間がネットできるらしい、どっちにしても、荒らしと同罪、責任とってもらわないとねvvv。住所もわかりました、今度行って、相応に詫びさせるつもり、お姉ちゃんがかわいかったら許すかも(^○^)、ともかく臨時収入の予感。そしたらちょっと豪華なオフ会やろうね〜』…って、コレ、完全に恐喝だね…」

  なかばあきれながら、しかし、棒読み口調なのが妙におかしい。

「その後にもいろいろ書いてあるね、『××さんかわいそう!荒らしなんてやっつけちゃえ!』…かあ」

 と、これは千尋。

「あっぱれな下衆ぶりだが…、お前がこうまで言われて黙っているようなタマだとは思えないが…?」

 もう一人のハクがリンの方を見やると、カウンターにふんぞり返り、足を振るわせながらトントンといらだたしげに指で大きな一枚木でできた天板を叩いた。

「わかってんじゃねえか」

 千尋達以外に客はなく、リンは完全に素だった。

「どんな店だか知らないが、ロクでもない店に違いない…って、リンさん、これ、ログ取っておいたら脅迫罪か営業妨害で通報できるんじゃないのかな?」

「ちっきしょー、もののわかって無い姉ちゃんで悪かったな!!」

 ドン!と、リンは力いっぱいカウンターを叩く。載せてあった水の入ったグラスが少し揺れてこぼれた。

 その時だった。ガラス戸が開き、顔を出した裕介と、リンの目が合い…。気まずそうにリンが、

「い…いらっしゃいまっせえ」

 と言うと、祐介はぽかん、と、リンの様子に驚き、…そして。

「ああああああ!!!」

 千尋とハクを見て叫ぶ。千尋とハクは、突然の祐介の絶叫の意味がわからず、顔を見合わせる。祐介にとっては、春以来追いかけていて、気になっていた二人で、なかばあきらめていたというのに。

 青天霹靂。とか、そんな感じ?と、祐介は思いながら、ガラス戸を閉めた。

「…?どうかしたんですか?」

 リンが尋ねても、祐介は薄笑いを浮かべるだけ。とにもかくにも、役者は揃って、今晩、電話の男がやってくる…。

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