時が止まったかのように、ゆっくりと堕ちていく少女。
あらがなえない誘惑に、負けそうな自分へのはがゆさと憤り。
そう、私は、惹かれてしまったのだ、あの、美しい魔物に。
過去も、両親も、すべて捨てて、我が身を委ねたいと…思ってしまった。
罪深き我が身を、どうか…、許して、とは言えない。
けれども、否定できない、この思いを、もう、どうすることもできなかった…。
「「千尋!!」」
別れたはずの二つの意識が、重なる。
…失いたくない、助けなくてはいけない。
堕ちていく少女を追って、ハクは飛び降りた。
追いつけない、逃げていく、
白いハクは強く願った、力が欲しいと、少女を、千尋を助けるために
黒いハクもまた願った、人としての肉体で、竜に転じることを。
焼け付くように、痺れる体。全身で、自分を別の生き物に変えようとする、痛み。
だが、既に人となった身で、竜に転じる事はできない。
このままでは、千尋が…。
ハクの体から、先ほどとは逆に、黒いもやが出でる。それは、瞬く間に、白い竜の形を成した。
加速をつけて、千尋を追う。
人の身も、また、少女を捕まえた。が、空を飛ぶことのかなわない人は、少しでも少女を庇おうと、抱きしめた。
地面に、叩きつけられそうになった刹那、何かが、ハクと千尋を救い上げ、そのまま、再び楼閣まで飛び上がった。
わずかな時間が、ひどく長いもののように感じられた。
意識を失ったままの少女は無傷であった、人もまた、己の体を取り戻していた。
…そして、竜が、二人を助けた竜だけが、息も絶え絶えに、消え入りそうになりながら、少女へ視線を投げる。それは、肉体を持っていない、意識体のようで、半透明な白い竜の後ろの壁が透けて見えている。