逢魔の刻〜神隠し〜(2)

チリン…。

どこからか、音がする。

チリン…。

それは後ろから追いかけて来る。

逃げるように小走りになる。髪をポニーテールに結い上げた少女は、振り向かず、走った。

もう少し。あと少しで家につく。路地を曲がったところ、街灯の薄明かりの下に、

 男がいた。

 時代錯誤な黒い狩衣。出だし絹は赤く、長い髪を後ろで束ねている。美しい、青年だった。

 薄く微笑んで近づく。驚くほど冷たい指が首筋を這う。

「…千尋?」

 名を、呼ばれる。だが、それは少女の名ではない。

「誰!?…あなたは。」

 男の顔から微笑みが消えた。

「違う。お前は。」

 その目は、ゾっとするほど冷たい。

 恐ろしい、という考えとはうらはらに、その美しさから目が離せなかった。

 男の顔が近づく。

 指先で、あごを軽くあげられると、そのまま、唇を塞がれた。

「んっ…。」

 体が痺れて、とけていくような感覚。

 少女の体が、ブロック塀に追い詰められる。

 頭の芯が変に痺れて、膝の力が抜けていく。ようやく呼吸を許されると、今度は男の唇が首筋を這っていく。少女は序々に力が抜けていき、呆然と、道路に座りこんだ。

 頭の上で、冷ややかに男が見下ろし、言う。

「不味い。」

 指先から、体が冷たくなるのを感じながら、少女は夕闇に消える男の姿を見送っていた。

チリン…。

 どこかで、鈴の音が…した。

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