取られて行きし山々を、思ひやるこそ悲しけれ、
…か様に狂ひ廻りて、心乱るる此簓、さらさらさらさらと擦っては歌ひ舞うては数へ、
山々峰々、里々を、廻り巡りて…。

(謡曲・花月より)


 川原で少女が泣いていた。赤い着物に禿髪。沈み行く夕日を浴びて、うずくまり、打ち震える姿に、長い影が重なった。

「泣いているのか?」

 少女が顔を上げると、黒い翼を広げて舞い降りてくる、黒い着物の山伏仕立て、手にした杖がきらりと光った。夕日よりも赤い髪を振り乱し、表情はどこかあどけない、一見やんちゃな少年然とした、異形の姿。
 その姿に驚いて、少女の涙が一瞬止まる。降りてきた異形が、微笑んで言った。

「俺と来るか?俺は子供を探していたんだ」


雛宴


■不思議の町side

 女雛を探す協力を約したはよかったが、どうするべきか、さしあたりの手管をハクも千尋も考えあぐねていた。もちろんハクとて失せ物探しの魔法は心得ていた。ただそれを試みるには、あまりにも材料が少ない。

「おばあちゃんに相談してみたらどう?」

 千尋の持ちかけに、ハクがしばし考えこみ、立ち上がった。

「銭婆様の元へ行ってみよう」

 じゃあ私も…と申し出た千尋だったが、身重であることがわかった以上、今はとにかく体をいとわなくてはならない。一人で行く、というハクを見送り、千尋は再び件の雛達の元へ行くことにした。

 諸手をあげての歓迎に、いささか閉口しながら、上座に座らされた千尋はゆっくり周囲を見回した。

「お探しの女雛の心あたりは無いんですか?」

 ひそひそと言葉を交わしだす雛達。

「持ち去られた事はわかっているのです」

「そう、人の娘に」

 甲高い声の三人官女が答えた。

「それは、盗まれた、という事ですよね。…失礼かもしれませんが、皆さんの持ち主…は探してらっしゃらないんですか?」

 雛達を刺激しないよう言葉を選びながら千尋が続けて尋ねる。

「我らが主は、あの女雛は娘にくれてやったと思うようにしておる、恐らく探す気はないのであろう」

 憤慨したように男雛が答えた。

「探す気は無い?」

 怪訝そうに、千尋は自分の指を唇にあて、しばし考え込んだ。


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